カレーの沼(仮)

脳汁が出過ぎて文字数が溢れた時の保管場所です。

下北沢:オイシイカレー(通称)



せっかく下北沢に来たので「新しいカレー屋でも行ってみるか」と、位置情報で検索して入った店がこちら。[オイシイカレー]って振り切った店名だな……と思ったら、店名ではなく通称らしい。どういうこと? 最近の東京カレー事情を追えていなかったので、事前情報を掴めていない。どんな店なのか想像できないけど気になる。そう、想像できない店は行きたくなる。

年4〜5回東京に来る機会があるけど、ついついなじみの老舗ばかり行ってしまい、新しいカレー屋を開拓できていない。懐かしさのあまりという理由もあるけど、食べログ高評価の新店に入っても「確かに美味しいけど」という感想で止まってしまうパターンが多く、なんとなく「こんな感じやろ」と想像できてしまっていたからだ。もちろん私が情報を追えていないだけで、[魯珈]みたいな超人気店は難易度がエグ過ぎて出張のついでに行けるようなスケジュールが組めないし、そもそも東京が広すぎるという理由もある。それにしてもここ数年、東京では「こんなのはじめて」というような強烈な個性に出会えていなかった。で、久しぶりにきたわけだ、大・衝・撃が。

カレーの聖地下北沢。我らが大阪代表[旧ヤム邸]も進出したカレー激戦区。[パンニャ]も[ムーナ]も[茄子おやじ]もある。知らない間に[カルパシ]の2号店もオープンしたらしい。そんな下北沢で(まだ行ってない店もたくさんあるけど、それを差し置いても)この店を「超絶イチオシ」として推したい。

Googleマップを頼りに[オイシイカレー(通称)]の位置情報が示す場所行くと、入口が見当たらない。建物が道路に面していない奥まったところにある。どうやら手前にあるビルをつきぬけていくらしい。ビルの踊り場の普通過ぎて逆にあやしい白い木枠のガラス扉を開けると、青いトタンの波板で囲われたバラック小屋のような異空間が出現。目に入ってきたのは白い電飾看板。赤い大きな「カレー」の文字と、その右上にとってつけたように「オイシイ」と書かれてるのを確認。ここで間違っていないらしい。

店内は、カウンターに丸椅子というラーメン屋っぽい作り。カウンター席はダンボールとブックスタンドをガムテで止めた仕切りで区切られている。ちょうど20時。カレー屋としては夜営業のピークが落ち着いたところか、お客さんは4名ほどでまばら。席を立ったお客さんと入れ替わりで恐る恐る入店。なかなか癖はありそうだけど物腰柔らかそうな店主さんの風貌を確認して、机の前に貼られたメニューを見た瞬間「絶対に美味い店だ」と確信。そして、どれを注文するか迷う。迷いまくる。 定番が2種、月替りが2種、それとは別に限定が1種の合計5種のカレーに、オプションの副菜が3種。更に、それとは別枠で「おすすめ」と書かれたコールスローサラダがある。

定番は「鶏出汁チキンカレー」と「豚出汁ポークカレー」。これは2種食べ比べ必須なやつでしょ。月替りは「冷やし鶏塩カレー」と「ひよこ豆のマサラ」。南インドのウブカリをアレンジしたという冷やしカレーが気になる(ウブカリがなんだかよくわかっていないけど)。 そして、限定はキムチをアチャールとして扱った「豚キムチ(アチャーリーポーク)」らしい。ふむふむ。

副菜は「ダールヴィシソワーズ」「マサラカポナータ」「苦瓜の節アチャール」。え、フレンチやイタリアンの要素も入ってきちゃうの? なにこれ全部食べたい。困った……と悩んでいると、「更に迷わせるようで申し訳ないんですが」と、実は壁に夜限定の短冊メニューが貼られていることを教えてくれる店主さん。「チャーシューエッグ」に「豚バラ軟骨のペッパーマサラ」に「アサリと新ごぼうアチャール」だと!? これは完全に酒のアテ。どれもこれも魅力的すぎる!!!

めちゃくちゃ悩んでいると、「今日はもう落ち着いてるし、特別に副菜や夜メニューを少量サイズで提供することも可能ですよ」と。神!!!! ということで、定番カレー2種+月替りの冷やしカレー、更に副菜2種と夜メニュー1種を少なめで提供してもらうことに。

これはもう呑む以外の選択肢はない! ドリンクメニューを見るとこれまた魅力的なスパイス酒がズラリ。最初は無難にビールとかレモンサワーあたりでええんちゃうか? というもう一人の自分の声も聞こえたけど、テンションが上がり過ぎていたので「超カルダモンジン」という、なんだか一番ヤバそうなやつをセレクト。実際こいつがヤバいやつで、一口飲んで笑う。

うっは〜〜(笑)超〜〜〜〜カルダモン(笑)カルダモンの清涼感も過剰になるとこんなに重いのか(笑)。しかも、それだけじゃない。高音でシャウトするラウドロック系ヴォーカル(カルダモンのことです)の裏で、メースとコリアンダーが「うちらもしっかりベースライン鳴らしてまっせ」と、ビリビリ主張してくる。ギリギリ麻痺しない程度に、鼻と舌を攻撃されて、流石の私もグイグイ飲めない。絶対にスパイス初心者にはすすめられないやつ。

そこへ、夜メニューの「豚バラ軟骨のペッパーマサラ」と副菜たちが登場。メインのカレーは後にしてもらって、一旦これらをアテにチビチビ飲むことに。ここから感動の猛ラッシュ!!!

まず、「豚バラ軟骨のペッパーマサラ」が美味すぎるうううう! 豚軟骨の旨味をブラックペッパーが引き立てるわけだけど、引き立て役に徹しているわけではなく、ペッパーがしっかり食材として美味い。ペッパー大量でもピリピリしない。シャープすぎず舌にやさしいペッパーの後味。圧力鍋で豚軟骨とペッパーを一緒に煮込んでいるからなのか?

次に、3種の豆とじゃがいもの「ダールヴィシソワーズ」。や、やさしいいいいい!っていうか、冷製ポタージュとしてのクオリティが高過ぎやしないか? フレンチとしてしっかり通用するし、控えめなスパイスがいいいいい仕事してる。ゴリっと砕けるこのスパイスはなんだ? 見た目でフェヌグリークだと思ったけど、ほんのりカカオニブとかコーヒー豆のような香ばしさと食感がある。考えてもわからなかったので店主さんに答えを聞くと、テンパリングしたウラドダルだった。なるほどーーーッ! この香ばしさはドライな豆か!! オリーブオイルでテンパリングしてるらしい。くぅ〜。

「苦瓜の節アチャール」のゴーヤはわざと苦味を出していると思われる。鰹節とゴーヤの相性は間違いないけど、アチャールとしてめっちゃくちゃ美味しい。すっごくいい。

ここで、超カルダモンジンが「口直しのドリンクとして機能していない」ということに気づいた私は、コールスローサラダを追加注文。マヨネーズを使わないさっぱりしたコールスロー。これが大正解!!! というか、この店に来たら間違いなく絶対に注文した方がいいやつ。おすすめと書かれていた理由がわかった。素晴らしい口直し要因。その後、店主さんが気を効かせて「口直しに……」と出してくれた「マサラティー」もめちゃくちゃ濃い(濃くて美味い)けどいい口直しになった。

さてさてさて、満を持して3種のカレーが登場。もう、期待値は最大限に上がってる。心臓の高鳴りがすごい。鼻息も荒い。香りを楽しみたいのに鼻から息が漏れてしまう。見た目はシンプル。ライスは別皿で、カレーはそれぞれ小さなカトリに盛られている。カレーの見た目は南インドっぽい。添えものがネギやもやしなところにこだわりを感じる。これでカスリメティとかパクチーが乗ってたらガッカリしてたかもしれないけど、期待を裏切らない。

まずは、定番の「鶏出汁チキンカレー」から味見。スプーンを口元に近づけて香りを確認する瞬間が一口目の醍醐味なわけだけど、ここで脳が意外な反応。あれ? スパイスの香りを立たせてきそうなのに、鶏出汁の香りが鼻を突き抜けてきた。鶏の香りが勝ってる。ああぁあ〜これはめちゃくちゃいいイノシン酸だわ〜! と、日本人のレセプターが幸せをキャッチして、口に入れる前から多幸感に包まれる。口に入れるのが怖いくらい。う、美味い。鶏出汁が口の中から胃に沁みていく。そして、舌からはスパイスがちゃんとスパイスとしてしっかり機能している。攻撃的なスパイス使いに構えていたけど、低周波で効くやつ。めっちゃくちゃバランス計算されてる。添えられたネギも、彩り要因としてだけでなく、スパイスの役目を担っている。

「豚出汁ポークカレー」の方も、いわゆる豚骨ラーメンのスープのイメージとは少し違う。嫌な臭みはなく、濃厚だけどサラッとしたスープ。鶏出汁の方よりもスパイス度が強く、クローブの香りが食欲をそそる。そして、肉の状態が匠の技。弾力を残したほろほろ感とプルップルのトロットロが合わさった、ものすご〜くエロい状態。スプーンで割ると中は綺麗なピンク色。そこに絡まるもやし。すくって揺らしてみる。スプーンの上で踊る豚の脂。こんなの口に入れちゃっていいの!? あああぁ口の中が幸せ。鶏肉の方もいやらしいほどプルッとしてた。

豚骨ラーメンスープっぽいカレーを今までいくつか食べてきたけど、豚骨に支配されてカレーじゃなくなっちゃうパターンがほとんどだった。でもこれは、ラーメン要素が若干勝ってる6:4のバランスでカレー。で、驚いたことに「南インド的」。ポークビンダルーみたいな南インド式の豚のカレーという意味ではなく、サンバルとかラッサムの立ち位置で成り立ってる豚スープ。このバランスは本当にすごいと思う。

最後は「冷やし鶏塩カレー」。チェティナード地方のカレー「ウブカリ」をベースに、鶏ミンチの冷たいカレーにアレンジしたものらしい。鶏とレモンと塩とターメリックのシンプルな味。パウダースパイスを混ぜて複雑な味を出すのではなく、ホールスパイスひとつ一つを噛んだ瞬間を楽しませるタイプ。フェンネルシードが特徴的。プチッと弾ける一瞬の苦味の後の甘味が口の中をリセットする。白髪葱と胡瓜の細切りもポイント。冷たい状態も美味しいけど、温かいライスにのせるとまた違った印象。

ちなみに、ライスはインド米と日本米のミックス。あと、忘れてはいけないのが、カウンターの上にある「紅ショウガのチャトニ」と「キュウリの漬物」。この南インド的キューちゃんだけでご飯何杯もいけるし、豚骨に合うに決まってる紅ショウガのチャトニも名脇役過ぎる!!! 

最後の最後で、今度こそ口直しに……と思って注文したローズウォッカのラッシー割りもかなり主張の激しいやつだった(美味しいんだけどね!!!)。 ちゃんと「飲みやすいラッシー」というメニューも見えてはいたけど、本当に全メニュー気になり過ぎて、バグったメニューを選びがち。次回は1杯目はビールにしておく。

いやー、最高だった。久しぶりに下北沢に来てよかった……。と最後に全力で感謝の意を述べて帰ろうとしたら、店主さんから「あの、もしかしてトミモトさんですか?」と。あら、私って東京でも知られてるの? Meetsのカレー特集とかYouTubeのカレー動画に出演してるやつを見てるのかな?って、ちょっと自意識過剰ながら思うじゃん? で、次の発言「ニンカンプウプのトミモトさんですよね」に超絶のけぞる(知らない人のために補足すると、洋服屋だった頃の屋号です)。えっええええええええ!?!? そっち!? そっち知ってる人なの!!?「高校生の頃からファンでラフォーレのショップ行ってたんですよ」と。んなことある!?!?

実は、店主さんはアパレルブランド「CUNE」のスタッフ。「スタッフが作るカレーが美味い」と評判で、最初はCUNE下北沢店のBARスペースで提供していたものが、昨年4月に独立店舗としてオープンしたのがこちら。会社を辞めて独立したのではなく、社内ベンチャー的に経営しているらしい(知らなかったけど、下北店閉店しちゃったんですね)。まさかそんな店だったとは!! 今まで飲食店で働いていた経験はなく、この店のオープンの前にラーメン屋とカレー屋で短期修行したとのこと。南インドも行ったことはないらしい。あと、店主さんはバンドもやってたらしい。いろいろ納得。あまりの衝撃に、コメントが4000文字超えてインスタに投稿できなかったので(インスタは2200文字までしか投稿できないらしいよ)、はてなブログを立ち上げてしまった。いや、今右下の文字数見たら4967文字って書いてあるわ……って書いてるうちに5000文字超えたよね。